本棟への侵入もまた、憐の魔術であっさり成功した。警備員から見つかりにくそうな場所を選んで、さっきと同じように入り口を作っていた。
結界と爆破の合わせ技。
詳しくは分からないけど、あの方法は効率悪そうだなと思う。
魔術って言ったら、鍵を開けたり、ドアを作ったり、壁をすり抜けたりもっとスマートなやり方もありそうなものだが…。
憐が建物の中へ入っていく。
俺は離れないように憐に続く。
中は倉庫と同様、暗くて人気はない。
通路をまっすぐ歩いてきて、広い場所に出た。
「ここがエントランスね。あそこ、カメラ。」
見ると、正面玄関のすぐ上のところに防犯カメラが取り付けられている。
出来るだけ、カメラの死角を選んで歩いていく。
「なんか、泥棒みたいで嫌だな…。」
「それ、私も思ってたとこ…。悪い事してるみたい。」
実際、不法侵入は悪い事だけどな。
エントランスを抜けるとエレベーターと階段があった。
「尤、これ見て。何階に何があるか書いてある。」
見ると、エレベーターの横に各階の部署名らしき表記があった。
「なるほど。」
「ここにも地下があるのか。」
「うん。しかも、こっちはB3階まで。ちなみに私はそのB3階にルナーが居ると思う。この案内を見て確信した。」
「どうして?」
「さっき話した建築計画書の図面には、ここの地下についても書いてあったんだよ。それで不思議に思ったのがB3階。」
「不思議?」
「うん。B1階もB2階も普通なんだけど、B3階だけ2つの階層分の高さで1フロアになってるの。」
「天井がそれだけ高いって事か。それで、そこに何があるんだ。」
「分からない。けど、特殊な装置や機材なんかを置くためでしょう。開発研究部って名前から考えても怪しすぎる。」
「確かにな。けれど、それだけだと情報が足りなくないか?相手は魔術師だろ。」
「うーん。正直、危ないとは思えないのよね。魔術の痕跡もちらほら見つかるし。武藤が魔術師だとしても相当格下。私ならこんな雑な事はしない。魔力が勿体無いもの。」
「そうか…。」
「あれ?2階に研究開発部ってところがもう1つあるわね。」
「同じ部署が2つ?そんな事あるか?」
「どうなんだろ。でも、場所が離れているのは不自然よね。2階も行く価値はありそう。尤はどう思う?上と下、どちらに行くべきか。」
地下フロアにルナーがいるのはほぼ確定のようだ。
ただ、今ひとつ情報が足りないような気がする。武藤が何を企んでいるのか。ルナーを監禁している目的は死んだ娘の代わり。本当にそれだけだろうか。
地上フロアで何か見つかるだろうか?
「2階へ向かう」
「それじゃあ、2階の研究開発部に向かおう。」
「分かったわ。そうしましょう。」