外が明るい。
瞼を貫いて強い日差しが眼球に突き刺さる。
目を開けるとカーテンが開いているのが見えた。
そこから自分の顔に日が差している。
「ああ…。昨日窓開けたままだったから。」
仕方なく、起き上がってカーテンを閉めた。
それから、もう一度ベッドに戻り、横になる。
「……」
「寝れねえわな。」
ゆっくりと上体を起こして、リビングへ向かった。
暗転
「おはよ。今日は遅めねー。夏休みだからってだらだらしてたら、すぐ休み終わるわよ。」
彼女はコーヒーをすすりながら、図鑑ほどの分厚さがある本から目を離さずに言う。
「ああ。分かってるっての。」
「なに、その返事〜。そろそろもうおはようくらい言いなよね〜。」
「……」
憐と出会った日。あの衝撃的な1日の締めくくり、俺は彼女の弟子になった。
俺は。近衛尤は独りだ。
他人と共有出来ない経験やそこから得る価値観を持ってしまっている。
そう思う要素の一つとして、幽霊やそれに類するよく分からないものを目にするという生まれ持った呪い。
俗にいう霊感が俺と他人の境界をはっきりとさせている。
人との隔たりは霊感を意識し始めた幼少の頃からあったが、最近になって段々と強く感じるようになっていた。
俺の居場所はこの世には無い。
それは俺が1番強く持っている感情だった。
その感情に押し潰されそうになった時、憐と出会った。
彼女は俺と同じ霊感を持っている。
彼女曰く、霊感とは死者の残留思念が魔力で実現させた現象を捉える力なんだそうだ。
彼女は古物研究家という肩書きの裏に魔術師というもう一つの顔を持っている。
そんな胡散臭い裏の顔はどうでも良い話だけれど、一つ言えるのは自分の特異性を長所にしている変わった人間。
霊感を持つという共通点以外は相容れない別種の人間だ。
「ああ…。」
まだ、ここへ越して来て日が浅い。
他人と家で挨拶を交わすというのには幾分抵抗というか違和感がある。
しかし、憐はそんな事を気にしない。挨拶の催促もするし、距離感も近い。
正直、鬱陶しい。
「朝食の準備するね。」
憐は席から立ち上がり、キッチンへ歩いて行った。
祖父母の死後、俺の両親と旧知の間柄だという白波瀬家にお世話になる事となった。憐は俺とはもちろん俺の両親とも面識はないらしい。あくまで両親同士の交流があった事を知っているのだという。
この暮らしは苦痛だ。
しかし、卒業までの2年とちょっと、じっと耐え抜けばいい。
それで自由が手に入る。