暇潰しB

翌日午前中

 

「魔力、結構集まったね。」

 

「そうだな。もうちょっと集めたら戻るぞ。」

 

「うんっ。」

 

「ん?あ。あれ、何やってんだ?」

 

「むむむ……どうしょっかな〜。」

薬局の前に何者かが1人佇んでいる。

何か悩んでいる様子だ。

 

「なに、誰?」

 

「ちょっとな。知り合いっていうか。」

 

「あ、尤!何やってんの、こんなところでー!」

 

彼女は振り返って、こちらへ駆け寄って来る。

 

「あーあ、見つかった。」

 

「なーにが見つかったよ。最近顔見せないし、約束もすっぽかすしー。お姉ちゃん悲しいよ〜。お父さんもお母さんも心配してるよ!」

 

「あー、悪い悪い。」

 

「まったく…。あれ?そっちの女の子は…?」

 

「ああ、この子?ルナーって言うんだ。あー、えっと憐の親戚でな。遊びに来てて。」

 

「へー、親戚…。」

 

 

「えっと。ルナー、こっちは美奈。子供の頃からの…あー…知り合いだ。」

 

「あ、どうも。」

 

「こんにちわー、ルナーちゃん。あとね、尤。私とは幼馴染でしょ?」

 

「は、はあ。いや、それより何やってんの。買い物?」

 

「ああ、そうだった。これよ!これ見て。」

 

「ん?ポスター?うわ、なにこれ。」

薬局の窓ガラスには大きなポスターが貼られている。武藤製薬と書かれたポスターの端には象の鼻とうさぎの耳を持つキャラクターが描かれている。

 

「なにこれじゃないよ。らびぱおくんだよ!」

 

「キャンペーン…?」

 

「そう!!武藤製薬の対象商品を2つ買うともれなくらびぱおくんマスコットが付いてくるんだよ!!」

 

「へ、へぇ…いらな…。」

 

「ええー、いるよ!それで、なに買おうか迷ってたんだけどね。風邪薬買おうにも2つもいらないじゃん?どうしようかなーって……あ!」

 

「……」

嫌な予感がする。

 

「尤、風邪薬いるでしょ!!」

案の定。

 

「いらねえよ…」

 

「え、いるでしょ??」

 

「いらねえ。」

 

「いやいや、いるって!」

 

「うるせえなっ…。」

 

「むとう…」

 

「ん?どうしたルナー?」

 

「いや…。」

ルナーの表情が陰る。

武藤製薬のポスターが気になるのだろうか。

 

「あ、ルナちゃんも風邪薬いるのね!?」

 

「え、えとー…。」

 

「おい。やめとけって。」

 

「そうなのね!」

 

「……んと……。」

 

「ほら、困ってるじゃん。」

 

「うぅ…欲しい…。」

涙目で訴えかける美奈。

 

「欲しけりゃ自分で買えよな。出せない額でもないだろ?」

 

「えー。無駄じゃんかー。」

 

「………」

 

「欲しい…。尤〜…。ゆ〜う〜。」

 

「あー、もう分かったよ。あって困るもんでもねえし。買えば良いんだろ。」

 

「わーーい!ありがと!!尤は優しいねっ。」

 

「………」

 

「ルナー、ちょっと待ってろ。すぐ買ってくるから。」

 

「うん…。」

 

ルナーを残して、美奈と薬局の中へ入る。

 

暗転

 

「わーいわーい!らびぱおくんだよ〜!!」

 

「ったく。悪いルナー、待たせた……あれ?」

薬局の側にルナーの姿がない。

 

「ん?ルナちゃん…?」

 

「………」

辺りを見回すと、50メートルほど先にルナーが見えた。

 

「ん…ルナーだ。あれって…。」

ルナーの隣には見知らぬ男。

2人が脇道に入っていく。

 

「ルナちゃん…!?」

 

「もしかして…。誘拐…。ルナー!」

走り出す尤。

 

「え、え…??ちょっと待って、尤!?」

 

「た、助けねえと!」

 

「え、え!…危ないよ!」

 

「分かってる。だから、美奈はここで待ってろ!!」

 

「あ、ねえ待って、尤!!」

 

急いでルナーの後を追ったが、そこにはもう誰もいない。

 

憐に連絡をして捜索したが、その甲斐なく見つからなかった。

 

あれから1ヶ月ほど過ぎた今も、彼女の姿を見ることが出来ていない。