傷付いた猫

音があったのは憐の部屋だった。

埃の被った本、毒々しい液体の入ったびん、フラスコ、試験管などのガラス類が雑多に並んでいる。

そして、天井には穴が空いていて、部屋の中央にその破片が床に落ちている。酷い有様だ。

 

「何があったんだ。」

 

「………」

憐は瓦礫が多く積み上がった箇所をじっと見つめている。

その瓦礫をよく見ると、下に何かが埋もれているのが分かった。

「何かいる…。」

 

「分かってる。」

 

目を凝らす2人。

「んー…動物っぽいな。哺乳類。多分、犬か猫。」

 

「動物かよ。」

尤が瓦礫の前に駆け寄る。

 

「ちょ、ちょっと。」

 

「ちょっと手伝ってくれ。埋もれてる。」

瓦礫に手を掛けて言う。

 

「あ、うん。」

そう言われて、憐も瓦礫へ近寄る。

 

「もう…。危ないって。」

 

「何がだよ。」

 

「……。」

 

2人は瓦礫を退かせ始める。

 

暗転

 

「猫…だよな?」

それは憐の見立て通り、動物だった。

ただ、猫に限りなく近いけれど、本当にそうなのか。

桃色の毛並み。二本の尻尾も付いている。

瓦礫に埋もれてしまったせいか、意識はなく、肩で息をしている。いくつか傷もあって、見るからに危険な状態だ。

 

「この子…魔獣よ。」

 

「さっきのニュースでやってたのって…。」

 

「かもね。」

 

「何にせよ。早く手当てしないと。」

 

「ええ?魔獣を?」

 

「そりゃそうだろ。」

 

「そうよね。」

 

尤は猫のようなそれをそっと抱き抱えて、立ち上がる。

 

「空き部屋を使うわ。」

 

「あ、ああ。」

屋敷には客室として用意された空き部屋がいくつかある。そのうちの一つを使うのだろう。

 

「大丈夫だから。尤はリビングで待ってて。」

 

「そうか…。」

 

憐はゆっくりと部屋を出ていった。

 

尤に出来ることはない。

邪魔にならないようにリビングで待つ事にした。