交換条件

「そんな事があったのか…。」

 

「ルナーはさ。」

 

「ん?」

 

「ルナーはこれからどうしたい?」

 

「…もう、あそこには戻りたくない…。」

 

「そっか。じゃあ、しばらくうちに居なよ。」

 

「え……いい…の?」

 

「もちろん。そんな話聞いて、追い出すなんてできないわよ。どう?」

 

「……うん。」

ほんの少し、表情が柔らかくなった。

 

「ほお…。」

 

「だめ?」

 

「いや、人増えるのかと思ってさ。」

 

「反対なの?」

 

「そういうわけじゃない。」

 

「だって。良かったねルナー。」

 

「うん!」

 

「それより、ドクターってのは一体何者なんだ。」

 

「怖い人だよ。」

 

「んー。ルナーの話からすると医療とか薬剤関係に精通してるかも知れないわね。それに、監禁するための部屋を用意するなんて、それなりに財力か権力は持ってそう。大学の教授とか、経営者とか?」

 

「なるほどな。ドクターは今頃、ルナーを探し回ってるかもな。」

 

「どうだろうね。目的が分からない以上、なんとも言えないなぁ。もしも何かの研究者だったらルナーを手に入れたいと考えるのが普通よね。魔獣の希少性を知らなくても、こんな風に変身する姿を見れば、その価値は誰だってわかる。ただ、一般人なら知ったところでまず警察に届けようと考えるのが普通。しかし、ドクターは違った。連れて来た猫が人に変わって、貴重な存在だと知ると、それを実験の対象にして、苦痛を与え監禁した。どう考えても異常。」

 

「たしかに…。ルナーはドクターについて、他に分かる事はないのか?どこに住んでいたとか。」

 

「場所はよく分からない。もうあまり覚えていない。ただ、ドクターに連れて行かれた時、私が居た商店街から歩いて着いたのは覚えてるよ。」

 

「ふむふむ。他に覚えてる事ある?」

 

「うーん。他に…。」

 

「あ、聞きにくいんだけど1ついいかな。」

 

「はい?」

 

「えっとー…近所の商店街で暴れた?」

 

「いや、直球過ぎるだろ。」

 

「なに?」

 

「この近くの商店街でクマが出たって報道があってさ。それがルナーなんじゃないかってさ…。」

 

「私クマじゃないよ?」

 

「いや、そうなんだけど。」

 

「でも、私かも…。覚えてないけど…覚えてないから、私かも知れない。」

 

「昨日の記憶がないのか。」

 

「うん…。」

 

「なるほどね。今出る情報はこのくらいかな。ひとまず、私は心当たりを探ってみるとするかな。」

 

「探る?ドクターについて調べる気か?」

 

「うん。ルナーの話からは結構危ない匂いがする。」

 

「そうか。」

 

「あら、手伝いたい?」

 

「いや、全然。」

 

「ふふ。まあ、今のところやって欲しい事もないからいいけど。」

 

「何があるか分からないし。代わりにいつもの頼もうかなぁ。」

 

「そうか…。分かった。」

 

「ルナーもちゃんとやるのよー。2人で頑張ってね。」

 

「え…なにをするの?」

 

「魔術の痕跡採集だよ。」

 

「採集?」

 

「俺が後で教えてやる。別に難しくない。」

 

「働かざるもの食うべからず!だから、ルナちゃんも頑張るんだよ〜。」

 

「お、おー。…あ、あの。」

 

「ん?」

 

「あの……えと…。これからよろしくお願いします…。」