お昼

2人がリビングに着くと、憐の姿はなかった。

まだ、地下の書庫で資料を探しているんだろう。

 

呼びに行ってもいいが、書庫にはあまり近寄るなという言い付けがあるので、リビングで待っている事にした。

 

リビングはダイニングと兼ねていて、キッチンが隣接している。

ルナーの飢えをしのぐため、冷蔵庫や食料品の入っていそうな棚を物色したが、簡易食品の類が全く見当たらない。

冷蔵庫にはある程度材料は揃っているものの、調理が必要だ。

考えながらうろうろしていると、憐がリビングに戻って来た。

 

「あれ?どうしたの?」

 

「お、良いところに来た。何か食べ物ない?」

 

そう聞くと掛け時計に目をやる。

時計の針は2本とも上を向きかけている。

「ああ、もうこんな時間。すぐ支度するね。…ってあれ。」

 

「ん?」

 

「元気になったのね?」

憐は尤の隣にいるルナーを見て言う。

 

 

「うん…。」

俯いて、俺の陰に隠れるように半歩引いて応える。

 

 

「うわー!あなた、喋れるようになったの。良かったー。」

 

「…」

怯えるようにまた半歩引くルナー。

 

「ほら、言う事あるだろ。」

コツッと肘でつつくとルナーの体が揺れた。

 

「え…?」

 

「お礼言っとけ。」

 

「あ……えっと、治してくれてどうもありがとう…。」

丁寧にお辞儀をする。

まだ警戒している様子で歯切れの悪い言い方。

 

「あはは。良いのよ。」

 

「…」

 

「お腹すいたでしょ。すぐ支度するね。」

 

キッチンへ行った憐はフンフンと鼻歌交じりで調理している。

待っている間、何度かルナーに話し掛ける尤だったが、気の抜けた返事しか返ってこなかった。

ここに来るまでと少し様子が違う。

憐を怖がっているのか。

 

30分もするとダイニングテーブルに食事が並んだ。

 

「いただきまーす。」

 

「はい、どうぞー。」

 

「……」

 

「どうしたの?食べないの?」

 

「ん?食わないなら俺が食うけど。」

 

「ちょっと、ユウー?」

 

「冗談だって。」

 

「…いいの?」

 

「もちろん。召し上がれー。」

 

「…んん……。」

 

箸を手にして、ゆっくりとご飯をすくい、口へ運ぶ。

 

「……おい…しい…。」

 

「良かった。いっぱい食べな。」

 

「はむっ…もぐもぐ…おいしい…。」

 

ルナーは顔が歪むほど、頬張って食べる。

余程空腹だったのか、数分で完食してしまった。

 

憐は優しく微笑んでいるけれど、これからどうする気なんだろうか。