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待合

待ち合わせの当日。

現在の時刻は、1640分。約束の時間を10分過ぎた。

待ち合わせ場所に指定された休憩所のベンチには、それらしき人物は現れない。

休憩所といっても、講義棟の出口付近にある簡素なもので、3つのベンチが横並びになっていて、その間には円柱状の灰皿が並んでいるだけである。

やることがないので、あらかじめプリントしておいた資料を読み返すことにする。柳楽刑事から送られてきた文書だ。当然、既に読み込んでいるため、確認程度にパラパラとめくる。

境常神道、事件現場、被害者、捜査状況などが事細かく書かれている。

これがバレたら柳楽刑事はクビになのか、なんて考える。


「あのーもしかして山井先生?」


声を掛けられる。

顔を上げると、1人の女性が前に立っていた。


「ん?」

「あれ、刑事さんから話聞いてませんか?」


淡い暖色系のカーディガンを羽織った女性が首を傾げてこちらを見ている。

どうやら、この人が協力者らしい。


「ああ、どうも山井です。」


「ですよね?よかったー」


そう呟くと、ひょこっと隣に座る。


「君が協力してくれるっていう人?」

「そうですよー。私が協力する人です」


風貌や口調から幼い印象を受ける。

見ると、少しだけ明るい髪が後ろで結ばれている。

「ここの学生さん?」

「はい、赤海大の学生ですけど。それどういう意味ですか?」

「いや、深い意味はないよ。私は山井といいます。」

「知ってますよー。さっき呼んだじゃないですかー」


彼女はケラケラと笑う。

先ほどから気になってた陽気さに、勘の悪さが加わり少し焦れる。


「はあ。えっと……君の名前は?」

「あ、私ですか?私は菅野です、菅野ひかり!お願いしますね?」

「そうか。ここでは話しにくいから、移動しようか」


苦手な部類かもしれない。

そう思いながら立ち上がり、歩き出した。