どうも、七緑です。
前回の宣言通り書いていきますよ。
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午後10時を過ぎた頃。
酔い潰れたスーツ姿の男性。派手なドレスに身を包んだ女性とそれらを侍らせて歩く腹の出た中年。見境なく手当たり次第に声を掛ける若い男とそれを無視する少女達。
彼らを照らす歓楽街の明かりは、色に統一感はなく無秩序に点滅し合っている。
しかし、それでも無法地帯ではない。
正常からはみ出しつつも、異常で収まっている。
それはある意味で、秩序だっているのではないだろうか――。
歓楽街に隣接した人通りのない裏路地。
街灯はなく、暗い。
通りの看板から発せられた明かりが辛うじて淡く差し込んでいる。
タッタッタッ。
男が走っている。
全身白い服を身に纏っている。
何か宗教的な衣装を連想させるような形。
「……くっ。ハッ、ハァ、ハァ。くそっ、クソが!!」
キョロキョロと四方を見回しながら、走り続けている。
その様子からして何者かに追われている。
裏路地を走り続ける。
男はもう一度、後方を確認するために振り返る。
彼を追う者の姿はない。
「ハァ、ハァハァ。よ、よし。」
タッタッタタタッ。
撒いた、そう思ってスピードを緩める男。
ふぅーと、呼吸を整え始めて、安堵の表情を浮かべる。
それから、ゆっくりと顔を戻して前を見る。
ド――。
心臓が一瞬だけ止まる。
黒い服の男がすぐ10メートルほど先に立っている。
鋭く冷ややかな視線は完全に自分を捉えている。
私を追う男だ。
後方に居るはずなのに。
撒いたはずだったけれど。
彼は、息も切らさずに私を見つめている。
「――なっ!?」
驚きのあまり、感情のまま声が漏れる。
恐怖で体が硬直する。
その場で立ち尽くす彼を見て、黒い服の男は表情を変えずにゆっくりと歩き始める。
――このままでは殺されるっ!!
「く、くそがっ!!」
左右を見て、道の続いていそうな方へ走り出す。
もうどうにもならないと感じながらも、あのまま居ればいずれにせよ死ぬ。
彼らに慈悲などない。
焦りと恐怖で思考が制限される。
明確な目的もないまま、足が動くだけ走り続ける――。
タッタッタッ。
「ハァ、ハァ。ゲホッゲホッ。ハァ、ハァ。」
走り過ぎて、肺が破れそうだ。
それでも止まることはできない。
右。左。右。右。左。
やつから離れられるならそれでいい。
身体が動く限り、走り続ける。
「――!?」
しかし、足を止める。
目の前に飛び込んできたのは道幅いっぱいに設置された金網のフェンス。
高さは3メートル近くあるが、よじ登ることでしか進めそうにない。
「クソッ。ハァ、ハァ。運がねえ。」
肩で息をしながら、名残惜しそうに踵を返す。
「仕方ねえ。戻るしか――」
「どこへ戻るんでしょう。」
戦慄。
耳元で聞き覚えのある声。
あの低く嘲笑するような声がする。
振り返ると、目の前に立つのはあの男だ。
「――!?」
「どうも、ミガハさん」
氷を当てられたように背筋が凍る。
恐怖に飲み込まれ、動けない。
「はっはぁ、あああっ!!い、や、おれは!!」
辛うじて動く首から上でもがくように声を発する。
取り留めのない事を叫ぶしかない。
恐れによる気の動転が思考を極端に遮る。
「あなたに戻る場所はありませんよ」
そう言うと、男は右手を自身の額に当てる。
「いや、や、やっ!!やめろ、それは!!!」
「それでは」
ゆっくりと。
その右腕を振り下ろす。
「うああああああ!!!!」
断末魔の叫び。
頭が風船のように不自然に膨れ上がる。
そして、限界を超える。
バガンッ、と。
破裂する。
そして、バケツをひっくり返したように、赤い液体を撒き散らした。
それまで、人間の身体だったモノが遅れて地面へ倒れる。
「さようなら」
男は頬に付いた血液を指で拭った。
その表情は冷え切っていて、淡々としていた。
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物語冒頭、被害者からの視点で事件について描いてみました。
一章内でのとりあえずの謎の提示です。
読者にとってはこの謎を解くことがとりあえずの目的となります。
「起こっていることは分かるけれど、深い所までは分からない」という形になっていれは、嬉しいです。
では、近いうちに。
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