どうも、七緑です。
前回考えたポジションをもとに会話シーンを書いてみましょう。
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「うあぁぁぁぁ!!ないないなーーいい!!!」
耳をつんざく甲高い声が家中に響き渡る。ドタドタと音をさせて、廊下を駆け回っているようだ。誰かが喚き散らしている。
まあ、この家にうるさいのはあいつしか居ないけれど。
ビタンッ。
居間の障子が勢いよく開く。
「ないー!!!」
眉間に皺を寄せた月が飛び込んでくる。
「うるせぇなぁ」
反射的にそう言うと、月は俺の顔をキッと睨み付けた。
急な奇声に対して、真っ当な反応だろうが。
頬を膨らませて、拳を握り込んでいる様子を見るに、相当ご立腹なようだ。
「うるさくなーーい!!」
「……それがうるせえんだよ」
「その反応……ゆう怪しい!!」
「はぁ??」
「どうせ、なにか無くしたんでしょ?家の中で無くした物は家の中にあるんだ。そのうち出てくるよ」
憐は読んでいる本から視線を外すことなく言う。
月の訴えに関心を持っていない。
週に一度はこんな形で月が叫び回る常習犯だからだ。そのほとんどが月自身が原因の紛失物なのだ。
たしかにそうだ。と、頷く。
「ちがーう!違う違うの!」
しかし、ぶるぶると首を横に振る月。
身体を大袈裟に動かして、必死で訴えている。
「どうしたのー?月ちゃん」
心配そうに尋ねる美奈。
居間と隣接した座敷の方、少し離れたところに座っている。
「あ、美奈ちゃん!」
美奈を見つけるや否や、トコトコと駆けていく。それから、美奈のすぐ隣の座布団へ跳ねるように座った。
いつもいつも騒がしいやつだ。
「月ちゃん、何かあったの?」
隣に正座した月を見て、優しく声を掛ける美奈。
「あのねー?月が楽しみにしていたお菓子が無くなっちゃったんだよ。」
眉をひそめて上目遣いに訴えかける月。
「えー、そうだったの!?どんなお菓子?」
「んー。甘くてしょっぱい棒のやつ」
「あっ。もしかしてぷりっきー?」
「あ、そう!それー!」
興奮する月。
少し得意げな美奈。
「ほう。今回の被害者はお菓子のぷりっきーか」
ぷりっきー。
小麦粉やら何やらを棒状に焼いて、塩をまぶし、その上からチョコレートでコーティングした甘塩っぱいお菓子である。俺が物心ついた頃には発売されていたので、中々のロングセラー商品なんだろう。
今まで、月はあらゆる物を家のどこかに投棄してきた常習犯だ。文房具から始まり、本やテレビのリモコン。メガネなどなど。
月は目が良いので、他人のメガネを無くしているというところに才能が伺える。
そして、次は食品にまで被害が出たか。
ぷりっきーねぇ。
「……ん?」
ぷりっきー。
覚えがあるような。
「月。それって、倉庫に置いてあったお菓子か?」
「うん、そうだけど?」
「ほ……ほう」
一昨日あたりだったっけ。
深夜に小腹が減ったから、俺が食ったんだった。
「どうしたの、ユウ?」
「え?な、なにが?」
テーブルの向かいに座っている憐が、少しだけ身を乗り出してくる。
「……さては食べたな。」
そして、向こうの2人に聞こえないくらいの小声で言う。
「……!?」
鋭い質問に一瞬だけ顔が歪む。
「分かりやすいなぁ。食べたんだね?」
「くっ、食った……」
俺もまた身を乗り出して、月と美奈に気付かれないように小声で返す。
白状すると、くくくっと憐が声を押し殺して笑った。
「月、怒ってるぞー?」
そう言われて月の方を見ると、美奈との会話を続けていた。喜怒哀楽全ての感情を使って、思いの丈を美奈にぶつけている。
標的が定まっていないから、身振り手振りで済んでいるが、犯人が俺だと分かればたちまち暴力を振るいかねない。
「面倒だから、黙っていてくれ……」
「えー、どうしようかな」
不敵な笑みを浮かべる憐。
「頼む!憐だって、家の中で暴れられたら困るだろ?」
「……うーむ。そうだねー」
「な?な?わかるだろ?」
「しょうがないなぁ。これ貸しだからね」
「よし!わかった」
話が付いて、ゆっくりと姿勢を戻す。
月の様子を確認すると、さっきと同じ調子で話続けていた。
「だからねー。ぷりっきーが好きなんだよ」
「なるほどね。美味しいもんね」
「うんっ」
美奈のおかげで随分と楽しそうに話している。この調子で、お菓子の事は忘れてくれないだろうか。
と思った矢先。
「そういえばさ。ぷりっきーを食べた容疑者は2人しかいないんじゃないの?」
「2人?」
「ユウと憐さんだね。私はここに住んでいるわけじゃないし、他に可能性がある人いる?」
「うん?そうだね」
月はあまりピンときていない。
「だから、2人を問い詰めれば犯人は見つかるんじゃない?」
名探偵ここに現る。鋭い視点から、着実に犯人を絞り込んでいく。
「確かに」
せっかく犯人探しから別の方に気が逸れていたのに、余計な事を。
「1人ずつちゃんと質問してみれば?」
「分かった。訊いてみるね」
美奈の提案に素直に従おうとする月。
立ち上がると、こちらを目指して歩き始めた。
「2人ともちょっといい?」
低く鈍い声でそう尋ねる月。
声色に反してニコニコとしているのが、不気味だ。
「……おう?」
恐れからか声が震えて、中途半端な返事になる。
「……そうだった。私も疑われるのかぁ。」
「……」
「では、憐から。あなたはぷりっきーを食べましたか?」
「いいえ」
「無くなったぷりっきーについて何か知ってますか」
「んー……」
「しってますか」
「……えっとー」
「しっていますかー?」
「知ってます。ユウが食べたそうです」
「……え?お、おい!」
「ごめんね。ユウ」
「!!……それは本当ですか!」
「うん。さっき俺が食ってやったぜって言ってた」
「そんな言い方してねえ!!」
「……」
月の方へ目をやると、すごい形相で睨んでいる。
「る、月……。これはそのー」
「ユウだったんだね……。」
「まあ、話を聞けよ。これには理由があってだな」
「うるさい!!鉄拳制裁じゃぁ!!」
そう叫ぶと、腰を落としてから飛び上がる。
「ぐふぁあ!!!」
顔面に激痛が走る。
両足を綺麗に揃えたドロップキックは顔面にクリンヒットし、悠景はもたれ掛かっていた椅子ごと後方へ吹き飛んだ。
「鉄拳じゃなくて、鉄脚だね」
冷静な目で訂正する憐。
「だ、大丈夫ー!?ユウー!!」
駆け寄る美奈。
蹴りを食らった顔面と打ちつけた後頭部の痛みにより、何がなんだか分からない。
視界が歪む。
意識が遠退く中、腰に手を当て、したり顔で見下す月の姿が見えた。
暗転。
「いって……。」
ズキリという痛みで目が覚める。
頭を押さえると、後頭部にこぶのよつな膨らみができている。
起き上がると、自分が座敷の方で横になっていたことがわかった。
「あ、起きた。気分はどう?」
横を見ると、美奈がいた。
背の低いテーブルを隔てて、向かい側に座っている。
「あ、ああ。何でここで寝てたんだっけ」
「えっと――」
「気にする事ないよ。自業自得なんだから」
どこからか声がする。
見回しても月も憐も居ないようだ。
声の主が見当たらない。
試しにテーブルの下を覗いてみると、月がいた。
ちょうど美奈の膝を枕にするように横になっている。
「そんな所にいたのか、月。あ、そういえばぷりっきーがどうとか言ってた気が。」
「そうそう。それでお菓子泥棒がバレて――」
「ああ!蹴られたんだった……。」
フラッシュバックする。
両足が顔面に突き刺さる瞬間。
突き飛ばされて、仰ぎ見る天井。
したり顔で見下す月。
ズキッという痛みが瞬間的に後頭部で走る。
「いてっ……」
「大丈夫?頭痛むの?」
心配そうに見つめる美奈。
「ふふん。やっほおもいだひたか」
ボリボリ。
口いっぱいに何かを頬張っていて、モゴモゴと聞き取りにくい声で言う。
ぷりっきーの箱を大事そうに抱えている。
「ぷりっきーあったのか」
「……」
ボリボリモグモグ。
月は悠景の言葉を無視して食べ続けている。
「あー、これはね。ユウが寝ている間に買ってきたんだよ」
代わりに美奈が応える。
「どろぼうにはかんけいなひでひょ」
「お前なぁ……」
何でもかんでも、突っ掛かってくる月に苛立つ。
一つ嫌味を言ってやろうか。
「寝転がって菓子ばかり食ってると太るぞ」
「ほーん」
「食い過ぎて太るぞ」
「太らん〜」
「太る」
「月太らんし」
「何を根拠に言ってんだよ……」
「ユウこそ、何をコンキョに言ってるんだね」
「医学的にだよ!」
ふふふと笑う美奈。
「まあ、深夜にお菓子食べたユウが言っても説得力はないけどねー。あはは。」
美奈が違う方向から痛いところを突いてきた。
「……たしかに」
と返すのが精一杯で、それ以降何も言えなかった。
月はこの日、一日中機嫌が悪かったけれど、次の日になると忘れてしまったのかけろりとしていた。
そんな簡単な事なのか。
あと、ぷりっきー3箱くらいなら、まだ食べても平気じゃないかという気分になった。
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はー、難しい……。
思い切って書くのに抵抗感があって、まだ中途半端になってしまいますね。
よくある雰囲気なのは構いませんが、中途半端なのがどうも……。
でも、これ以上踏み込んでも、寒くなり過ぎるような気もして、悩みます。
笑いどころに関しては現状どのくらい書けるのか確かめたかったので、この辺で一度締めようと思います。
次は何話しましょうか。
では、近いうちに。
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