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倫理降神会 開祖の経緯

どうも、七緑です。


倫理降神会の教祖様のありがたいお言葉。


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いつからか、同じような夢を度々見るようになった。

なんとも形容し難い感覚に襲われる夢だ。

決まって、始まりは私を呼ぶ声に気がつくところからだ。何を言っているのか分からない。誰なのか、何語なのか、音の大きさすらも分からない。

しかし、確かに私を呼んでいるのだ。

視界はぼんやりとして、見渡しても何も見えない。ただ、目に当たる淡い光を感じるだけ。


実感がなく、意識だけがはっきりしている。

その声とも音とも言えるそれは何かを私に訴えかけてくるのだ。

意味は分からない。

けれど、意思が伝わる。

私を招き入れるような感情が伝わる。


そんな夢を見るようになった。

初めは月に一度程度。

その頃は不思議な経験が出来たと好意的に感じていた。

そして、数ヶ月が経ち、夢の頻度は増えていった。

週に1度以上見るようになった頃には、私は精神を病んでしまっているのではと考え、医師に相談もした。しかし、至って健康と診断された。

精神状況は良好で、不可思議な夢と自分の心に相関がない事にだけ、不安を感じた。

精神病には自覚が無かったりするケースも聞くので、その類ではないかと真剣に考えるようになった。


夢を見る頻度はさらに増えた。

夢に出てくる声のような音の主は分からないままだ。

それが何を訴えているのか、伝えようとしているのか。私の関心は夢の内容の意味に向いていった。好奇心のような前向きなものではなかった。検診で見つかった腫瘍の摘出手術を検討するような感じだ。

1日の大半を夢と向き合う生活が続く。

あらゆる精神科を訪れるが、殆どが無意味に終わった。

分かったのは、私は至って正常で、医学的な見地から心身共に健康だという事だ。

もういっそ障害だの疾患だのと精神病の類を突きつけられた方がよほどマシだった。


一年も経つと、夢を見ない日はなくなった。

夢への関心は薄れる事なく、私の思考力は極めて制限された。

夢なのか現実なのか。

私は今、夢を見ているのか?それとも、夢について考えているのか?

夢と思考の境界は曖昧になり、ぼやけていく。

意識は現実からゆっくりと剥がれ落ちて、抵抗なく奥底へ沈んでいく。


あれはやはり、私を呼ぶ声だったんだな。


その頃にはもう、人としての生活を送ることが出来なくなっていた。

身体的な活動に意味を見出せなくなったからだ。

夢の中は心地良い。現実はもうだめだ。

物質のしがらみに鬱陶しさを感じるようになり、夢にのめり込むようになっていった。


それから、すぐに入院する事になった。

やっと精神病を患ったらしい。

私には、もう詳しい事はよく分からなかったが、知人が自宅でただ夢を見る私を発見して、病院へ連れて行ったのだ。

夢に生きる私にはどうでも良い話だった。


病院での生活は案外豊かだった。

私は一日中夢に耽る。

夢の主は変わらず私を呼び掛けてくれている。

気がつくと夢は私の拠り所になっていた。

しかし、そんな幸せな日々は長く続かなかった。


その日は、珍しく夢を見なかった。


痛い。

痛みで目が覚める。

頭が痛い。何かおかしい。

今までに決して味わったことのない強烈な痛みに襲われる。

体が震える。

頭の中を握り締められているような感覚。

目を開けると視界はぼやけて、小刻みに揺れて見える。

頭を押さえるが私の頭部はしっかりと楕円状を保っている。

しかし、確実に私の身に何か起きている。


不意に目に入るのは笑い掛ける顔。

驚いて、目を見開くとそれはもう消えていた。

しかし、その一目で理解する。

夢の主だ。

無論、見た事はない。

それでもこの一年間、ずっと感じていた彼の気配は紛れもなく本物だ。

私が夢に近づいたのか?彼が


痛みに体が震える。

悪寒。そして、吐き気。


堪え切れずにその場に撒き散らす。

なおも震えは治らない。痛みも止む事はない。

脳が見えない何者かに握り締められている。


ついに私はどうにかなってしまったのか。

その場で堪える事しか出来ず、うずくまる。

暗闇が迫り寄る。

平衡感覚は失われ、意識が朦朧とする。

私の身体が完全に暗闇に覆われ、断絶する。


気がつくと、白衣を着た人間が私を見ていた。

どうやら、私は痛みで気絶をしたらしい。

あれほど強烈だった頭痛が治まっている。


代わりに痛みではない違和感が残る。

頭を動かすとよりはっきりと分かる。

元々あったモノの代わりに新しいモノが埋められているような。

口内炎が出来てしまい、なんて事はないけれど気になるような。

じんわりとした不快感が付き纏う。


数週間もして、この感覚の正体がなんとなく分かった。

私は極力正常な思考のもと、自分の体験を振り返り、確信した。


私の脳は変容してしまった。

私ではない誰かのモノがこの両目、両耳の内側に収まっている。

根幹の、根本的な部分に対しての違和感と不快感。

突拍子のない夢と幻覚。

ある種の混乱と、それに対しての拒絶反応が幾度となく往復する。


そういう事だったのか。

私はもう人間ではないんだな。

そう納得している時点で、いずれにせよ私はもう正常じゃない。

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彼はこの体験により、生き方を変えて現在に至ります。

その最たる例が倫理降神教の開祖でございます。

倫理降神会は選ばれし我々を導いてくださります。

あなたに祝福の手を。


では、近いうちに。